第4回講座−神道研究入門−


項目
1、神道知識の必要性 8、戦前の概説書 15、反体制運動としての靖国神社の政治利用 22、民俗学・歴史学の共用
2、神道の入門書 9、神道考古学の概説書 16、報道機関の偏見に満ちた神道報道 23、推薦の国学者
3、神道を学べる大学 10、専門的概説書 17、神道の非政治性 24、柳田国男・折口信夫から
4、書店で入手出来る入門書 11、戦後の概説書が無い理由 18、批判的神道本の長所 25、研究に必読文献
5、適切な神道入門書はありません 12、神道の辞典 19、勉強のコツは先生を探すこと 26、神道の歴史から始めましょう
6、神道が関わる範囲は広範 13、戦後イデオロギーのトラウマ 20、神道は右翼でも左翼でもない胴体
7、神道の総合的な概略書 14、左翼による天皇制批判に連動する神道批判 21、民俗学から入る


1、神道知識の必要性
 神道の研究を志す程の人はなかなかいないと思います。
 しかし祭礼や神社の歴史を分析しなければならない人、或いは日本文化を研究しているが、どうしても民族信仰である神道の理解が必要になったという人もおられると思います。

2、神道の入門書
 そこで、入門書や概説書を探されても、適当な神道の入門書というものが無いのが、実は現状です。
 街の書店には、岩波新書や講談社現代新書、研究社文庫などに何冊か入門書的な書籍があります。
 しかし、個別テーマの書ばかりで、全体を包括的に扱った本はありません。
 また、神道を厳しい視点から著述する執筆者が多く、神道サイドに立って真摯に書かれているものは余りありません。

3、神道を学べる大学
 日本に於ける神道の専門大学は、東京の國學院大學(神道文化学科)と三重県伊勢市の皇學館大学(神道科)の二校があります。
 しかし残念ながら、これら二校の神道科の先生が執筆された適当な入門書というものもありません。
 これらの大学の先生方の著作は、専門研究の書物が主体となりますから、仕方のないことかと思います。

4、書店で入手出来る入門書
 そこで、一般大学で神道を研究している先生や評論家などが書いた本に頼ることになりますが、神道を専門に総合的に扱った本はありません。
 また、歴史読本などの特集号に神道や神社を特集したものがありますので、そういった書物が入門書ということになってしまいます。
 しかしこうした本は体系的、系統的記述の仕方でないため、どうしても情報が細切れになってしまっていて、辞書を読むようで、深みがありません。

5、適切な神道入門書はありません
  そこで、入門書や概説書を探されても、適当な神道の入門書というものが無いのが、実は現状です。
 街の書店には、岩波新書や講談社現代新書、研究社文庫などに何冊か入門書的な書籍がありますが個別テーマの書ばかりで、全体を包括的に扱った本はありません。
 また、神道を厳しい視点から著述する執筆者が多く、神道サイドに立って真摯に書かれているものは余りありません。

6、神道が関わる範囲は広範
  尤も、神道は外見以上に範囲が広汎な世界なのです。神道の思想、信仰、習俗、習慣から全国各神社の歴史・祭礼・特殊神事・神社建築・宝物まで多種多様です。
 また扱う人々も、天皇から一般庶民までと多様です。扱う時代は、縄文・弥生から現代に至る全ての時代が入ります。
 神道に影響した宗教では、仏教・キリスト教・道教・陰陽道・儒教があります。
 また神道が影響を受けた文化は、朝鮮・中国・インド・西洋の諸文化があります。

7、神道の総合的な概略書
 ですから、神道の概略を記述するというだけでも大部の書物になってしまいます。
 例えば、小野祖教著『神道の基礎知識と基礎問題』(神社新報社発行)でも720頁です。
 神道史のみを概説した『解りやすい神道の歴史』(神社新報社発行)で300頁です。
 しかし、これらの書籍を読んでも、解説者による解説がなければ、初学の方にはよく理解できないと思われます。

8、戦前の概説書
  こうした中で、戦前の本(昭和7年刊)ですが、清原貞雄『神道史』(650)は良い概説書と思われますが、神道史専門の概説書で、叙述も詳細です。価格も3500円ぐらいです。
 太田亮『神道史』(昭和13年、1300円)は、我が国系図学の大家の著作ですから、内容は濃いです。

9、神道考古学の概説書

 また神道の考古学方面からの研究では、大場磐雄『祭祀遺跡』(650頁、角川書店、昭和45年)を推薦します。
 これらの書籍で、考古学から文献史学までの全時代の神道を一応把握できます。

10、専門的概説書
  岩橋小彌太『神道史叢説』は、通史ではなく、専門分野の研究の幾つかを著作にしたものですから、系統的解説をしている著作ではありません。
 宮地直一『神道史序説』も、とても入門者にとっての序説でなく、専門研究者の序説です。
 但し、宮地直一は、後述するように、近代神道史学の基礎を造った第一人者ですから、神道の史的研究とは、神道の歴史をこのように考察していくものかという、正統的研究のお手本です。
 神道の研究をしてみたい方は、宮地博士の著作を早い時期に読んでおくことは必須のことです。

11、戦後の概説書が無い理由
  戦後の神道の通史的概説書は、個々の研究が進展して細分化してしまいましたので、それを体系的・系統的に概括することが難しくなり、適当な本がありません。
 以上に紹介した本は、古本のWeb検索エンジン「スーパー源氏」などからで入手できます。
 値段も余り高価なものではありません。

12、神道の辞典
  神道の辞典としては、いろいろ出ていますが、安津素彦・梅田義彦監修『神道辞典』(堀書店発行)が、詳し過ぎず、執筆者も戦後の神道学を構築した人たちですので、手頃かと思います。
 神道を研究するなら座右におくべきかと思います。
 神道の最も詳しい辞典は、宮地直一、佐伯有義監修『神道大辞典』ですが、これは図書館などで、見ればいいでしょう。
 しかし、やはり現在の新刊書でということを望むならば、何冊かのテーマ別の概説書を読み、全体像に迫るというしか方法がないと思います。

13、戦後イデオロギーのトラウマ
  神道では、天皇を非常に大切な存在としています。
神道に於いては、天皇は最高祭祀者(以下の言葉は適切ではないかも知れませんが、最高神主、或いは大神主=オオカンヌシということでもあります)。
 ですから、第二次世界大戦(日本での公式名称は大東亜戦争)後に、あの戦争に至らしめた責任を天皇に帰せしめようとするマルクス主義的左翼による戦前の体制批判の論調が世論を席巻しました時代に、そうした左翼思想をもった評論家や文化人・歴史研究者は天皇制批判を繰り広げました。
 その過程の中で、神道も彼らの研究の対象となったのでした。

14、左翼による天皇制批判に連動する神道批判

 その際に、彼らは、戦前の国家主義体制を支えたのは天皇制であり、その体制を精神面から支えたのは、神道であるとして、激しく神道を批判したのでした。
 したがって、神道を敵視する立場から神道を研究するわけですから、そうした人たちの神道の研究書に従えば、天皇は人民統治手段として神道を用い、神も支配したという結論に導かれる論理になっており、神道は超国家主義的宗教とされました。

15、反体制運動としての靖国神社の政治利用  近年の例でいえば、最近の靖国問題を機に靖国神社を扱った書物が、たくさん出版されています。
  そうした本は一見靖国信仰の解説を通じて靖国神社の理解を深めさせるのかと思って読んでいきますと、実は靖國神社は戦争で戦死することを美化するために国家によって造られ、天皇の為に戦死した人を祀る宗教施設であるとして、靖国神社を断罪することを目的として書かれている本であったりするのです。
 しかもそうした靖国関連本が実に多いのです。そうした本と、そうした左翼の批判から靖国神社を擁護する真摯な靖国神社の紹介を目的とした本が、同じ本棚に混在して並べられているのが現状です。

16、報道機関の偏見に満ちた神道報道
  戦後左翼の継承者は、現在も非常に多いのです。テレビに良く出てくる評論家や学者は、国家寄りの事を言うと出演させられなくなるようで、国家や伝統文化を批判していなければ、テレビに出演し続けることはできないようになっているようです。
  したがって神道は、右翼でウルトラナショナリズムの権化であるかのような印象を持たれている方々が、今日でもまだ多いと思います。

17、神道の非政治性
  しかし実際の神道は、国粋主義の宗教でもなく、超国家主義の宗教でもないのです。
 戦前の一時期に、国家が国家主義的政策に国民を導こうとして神道を利用した時期があり、
 その歴史が国家に批判的で左翼的な戦後文化人によって宣伝され、その宣伝が日本人に印象付けられて、神道が狂信的国家主義の中核にあるといった誤ったイメージのレッテルが神道に貼られてしまっているだけなのです。
 しかし実際の神道は、超国家主義者の集まりでも、なんでもないのです!天皇を頂いた神聖政治がなされることを教義としているわけでもないのです。

18、批判的神道本の長所
  左翼的執筆者による神道の本なのですが、実に良く調べて書かれている場合が多々あります。
 したがってそうした本でも、神道を勉強してみたいと考えている人には、かなり良い入門書となります。
 そこで、そうした書物を読む場合には、先ず執筆者がどのようなイデオロギー的立場で書いているのか見定め、知識を得ることを主たる目的にして、執筆者が織り込んでいる批評や感想は読み飛ばしていくようにするといいと思います。
 また、あくまでも参考書として読むのであって、指針の書としてはいけません。
 他方、執筆者が宗教家などの場合は、記述がロマン的(幻想的)になっていたり、祭りの意義や解説になると、感性的な解釈を行なって、論理や論証に辻褄の合わない飛躍が織り込まれてしまったりしていますので、そうした本も御用心下さい。

19、勉強のコツは先生を探すこと
  それでは、どのような勉強の仕方が一番よいかといえば、神道を良く知っている方に導いてもらうのが一番です。
 考古学のような、思想や信仰からではなく、物から考える考え方を持った人などは、教わるには良いと思います。

20、神道は右翼でも左翼でもない胴体
  神道は右翼の印象が強いですから、神道の勉強をすると右翼的思考に引き込まれるのではと、恐れる方もおられるかも知れません。
 でも、きちんと勉強していけば、大丈夫!右翼でも左翼でもない、胴体の思想を持った人になれますからご安心下さい。

21、民俗学から入る
  神道へは、民俗学方面から入ると入りやすいと思います。しかし民俗学はロマンの徘徊する世界ですから、同時に歴史学からも勉強が必要です。
但し、その歴史学もマルクス主義的歴史学(近年は随分下火になりましたが、現在も左翼史観の学者は多いです。日本中世史の研究者などはそういった方が多いように思います)ではいけません。

22、民俗学・歴史学の共用
  そこで、正統的な勉強を目指すなら、民俗学と歴史学をミックスさせる仕方がいいかと考えます。
 私の場合は、最初は本居宣長の「うひ山ふみ」・「玉勝間」(岩波文庫)から入りました。
 本居宣長の「古事記伝」は余りに分量が多いので、専門研究する段になったら、関係箇所を読むぐらいでいいです。
 平田篤胤は個性が全面に出ていますから、初学の人には却って負担になります。賀茂真淵も余裕が付いてからでよいでしょう。

23、推薦の国学者
 私が推薦する国学者は、伴信友です。伴信友の研究は、現代の神道史学でも学問的に充分通用する研究です。
 伴信友は、神道考証史学の元祖といえます。伴信友の諸著作『神社私考』・『鎮魂伝』・『正卜考』・『瀬見小河』などは、厳密な考証が加えられ、しかも論理も明快で整理されており、今から150年ほど前の人ですが、時間よる研究の古さを感じさせない研究ばかりです。

24、柳田国男・折口信夫から
  民俗学的研究は、やはり柳田国男の『海上の道』・『祖先の話』・『日本の祭り』・『妹の力』・『故郷七十年』ぐらいは読んでおきましょう。
 また、折口信夫の『古代研究』国文学編・民俗学編T、U(折口信夫全集、第1巻・第2巻、第3巻)、神道宗教編(折口信夫全集、第20巻)も読んでおきましょう。
 折口民俗学は現在の神道学に於ける様々な解釈の基礎になっている説が多いので、これらの著作は必読です。

25、研究に必読文献
  神道文献史料としては、『日本書紀』・『古事記』・『風土記』(岩波日本古典文学大系に所収は最初から最後まで全巻読破してください。)、『続日本紀』も全巻目を通して下さい。
 神道研究には最低限の基礎です。その他は研究に必要になってから読んでも間に合います。

26、神道の歴史から始めましょう
 私が、なぜ神道史学を重んじるかといえば、神道の理解には、思想面から入ると思想・信条が先行して現実から遊離してしまう危険があるためであり、また現代の宗教を扱う学問の宗教学からの理解では、他宗教との比較ばかりが論じられることになって、神道固有の世界に意義を見いだしたり発見する悦びを味わう前に他宗教に魅力を感じ興味が移ってしまうからです。
 宗教学的理解は、神道の独自性・固有性にしっかり気付き、神道の魅力を自覚た後の方が良いかと思います。

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